地域における小児緩和ケア -小児の在宅医療と緩和ケアをつなぐ
聖路加国際病院 細谷亮太氏(日本小児在宅医療・緩和ケア研究会代表)
小児のがんは、血液腫瘍や脳腫瘍が多い。
手術だけではほとんど治らなかったが、化学療法や放射線療法の進歩で、今では、小児がんの70-80%は治るようになった。しかし、がんばっても治らない病気が世の中にはまだまだある。
何年か前まで、子どもは自分の病気のことを知らなかった。
しかし、子どもが病気のことを知っているほうが、治療に前向きになるし、気持ちも安定することが多い。
聖路加では、小児の在宅での看取りにも取り組んでいる。
小児がんのアプローチはトータルケアであり、チームアプローチが必要である。子ども達にとって、在宅緩和ケアはとても大切である。
日本の各地で子どもホスピスの動きがある。
そらぷちキッズキャンプ(http://www.solaputi.jp)、
奈良東大寺の「華厳寮」、
大磯プロジェクト(海のみえる森http://www.umimori.org/)についての話もあった。
アルバータ州立大学 Dr Davies氏 / 司会:あおぞら診療所新松戸 前田浩利氏
緩和ケアの対象となる小児疾患は、悪性疾患だけでなく、呼吸器疾患、中枢神経の変性、中枢神経の異常などさまざまである。
トータルケアというのは、身体的、心理的、社会的、スピリチュアルなケアを行い、
経済的なコストや、家族、きょうだいについても配慮し、長期間続く可能性もある死後のケアについても含む。
大切なことは、チーム内のコミュニケーション、起りえることを説明すること、家族・きょうだいのサポート体制。亡くなることではなく、「生きること」をサポートする。
DVDでの講義のあと、スカイプを用いて会場とのやり取りが行われた。カナダは21時をまわったところ。
Daviesさんは、看護師になったあと、医師になった。その地域の小児の緩和ケアをしばらく一人で切り盛りされていたパワフルな方である。彼女はTシャツ姿で、とても気さくなお人柄だった。
【質問へのコメント】
小さな町に暮らす患者には、かかりつけ医が入る。病院側では、情報を提供し、チームをつくり、電話でいつでもコンサルトできる体制をつくる。ここに電話すればOKという体制をつくることで、かかりつけ医も安心できる。
首都大学東京都市環境学部 竹宮健司氏
英国では、1982年、世界で最初の子どものホスピスが設立された。
英国の子どものホスピスの特色は、遺伝的な疾患のため一家族に複数の罹患した子どもがいるケースがあること、緩和ケアが数年に及ぶことがあること、家族は子どもにとって最良のケアの提供者であり、在宅がケアの中心であること、と記載されている。
施設を利用する子どもたちは、通常、家庭医と専門医の指導のもと自宅でケアを受けている。そのため、子どものホスピスは、家族が休息をとるために子どもたちが5日程度の宿泊をするレスパイトケアに重点を置いている。
英国の子どもホスピスの半分は、在宅ケアのチームを持っている。
利用料金は無料である。行政から運営の補助が得られている施設もあるが、大半は寄付をおもな財源として運営されている。そのため、継続的に寄付を得るためのさまざまなチームやショップなどの仕掛けが存在する。
建物は車いすでの異動を考慮してバリアフリーで平面的に諸室を配置することが多い。家族室は家族の休憩を考慮して2階に設けられることが多い。
ここでは、家族はケアから解放された上で滞在することもできるし、子どもを預けることもできる。スタッフの介護負担軽減のため、居室、ジャグジーなどに天井走行リフト(ホイストという)が設置されている。
子どもの死亡後も家族が一定期間一緒に過ごせるように霊安室と家族室をセットにしているところもある。
英国の子どものホスピスは、人々の共感を得て具現化する力と、ニーズに応じた支援体制を備えている。ホスピスは、在宅ケアを補完するレスパイトケアを提供する場所としての役割を担っている。
神奈川県大磯で進む子どものホスピスプロジェクト「海のみえる森」についての説明も行われた。
竹宮氏は、英国の子どものホスピスを実際にみてまわった、子どものホスピスに造詣が深い建築家なのである。
著書:ホスピス・緩和ケアのための環境デザイン(共著、鹿島出版会、2010)
<座長> 名古屋大学医学部保健学科 奈良間美保氏 / 群馬大学教育学部障害児教育学講座 吉野浩之氏
- 病院医師からみた小児在宅医療大阪府立母子保健総合医療センター 新生児科・在宅支援室 望月成隆氏
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病院側の視点から在宅医療を支援する体制をとっている。
背景には、NICUから小児病棟へ、そして小児病棟から施設へ、しかし施設が満員で受け入れができないと、小児病棟もNICUも満員となる。
すると、分娩しても子どもが入院できないことから、ハイリスクな妊婦も受けることができなくなる。こういう現状がある。決して産婦人科医が怠けているわけではない。英国では、医療的ケアが必要な子どもたちに対して、在宅移行、退院後のフォロー、地域との連携がシステマティックに行われている。
在宅支援が充実することによって、早期退院が実現している。大阪でこのような地域連携に取り組んでいる。
重症の子どもの通院は大変である。できれば、元気なものが家に
行くほうがいい。
- 地方都市における小児在宅ケアと小児科医療ネットワークおがた小児科内科医院 緒方健一氏
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熊本市では、小児科開業医が在宅ケアの支援の中心となっている。緒方氏は小児の呼吸器専門医。通常は病院レベルのケアである、人工呼吸器の交換、条件の調整まで診療所で行う。
呼吸リハにも力をいれている。カフマシンを導入して肺炎が減った。積極的に呼吸リハを行うことが重要である。重症児の母親はかなりストレスを抱えている。きょうだいも不登校になる子どもがいる。レスパイトケアを行って、母親を支えること、きょうだいの支援を行うことも大切である。
- 子どもの在宅支援と緩和ケア
「育てにくさ」「生きにくさ」を何とかしたい そんな想いに寄り添う看護訪問看護ステーションほのか 梶原厚子氏 -
小児の緩和ケアは、病気や重い障害に立ち向かうために、生きる力を最大限引き出すために必要。産まれたときから長く生きられないといわれる子も、重症児者のターミナル期も、悪性腫瘍の子も、その子なりの健康を。
さまざまな支援があるが、そこからもれる人をケアするのが訪問看護。相談支援、集うことで連携をすること、終身プランを考えることは訪問看護の機能として大切。家族は相談したい人に相談する。肩書きではなく、その人に相談したいと思って相談する。今日のご飯、今日の睡眠、今日のお金、をラクにしていかないと、今日の暮らしはラクになっていきません。そこを支える。
つまり、訪問看護の仕事は、日々の医療的ケアを支えるのではなく、家族が医療的ケアを行うことを把握しながら、その子ども(と家族)の健康管理をしていくこと。
家が好き。いろんな人に出会えて、楽しい、それは子どもにとって
大切なことです。明日のいのちがわからなくても、最期まで学び、遊び、楽しむのが子どもである。ほのかでは、児童デイサービスほのかのおひさまを始めた。児童デイでは、障がい者手帳がある子どもも、ない子どもも預かることができる。愛媛県松山市にある大規模な訪問看護ステーションの管理者である。わが国ではおそらく最も小児をよくみている訪問看護ステーションだろう
。
- 地域の診療所が行う 重症障がい児のレスパイトケアひばりクリニック 高橋昭彦
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ひばりクリニック(宇都宮市)の重症障がい児者レスパイトケア施設うりずんについて報告。2007年度に行った研究事業が契機となって宇都宮市が日中一時支援の医療的版ともいえる制度を創設。2008年度からうりずんを運営。
現在人工呼吸器装着児4名、気管切開・経管栄養の児7名を定員3名で日中預かる。レスパイトケアは、家族にとっては一時的な休息を意味するが、子どもにとっては、自分のケアを他人にまかせることにより自分が成長し、他者と関わる貴重な機会にもなる。
全国どこに暮らしていても必要なレスパイトケアが受けられるといいと思う。【~会場とのやり取りの中で~】
在宅医療はチームケアである。現状では小児科医で在宅医療を行う医師は少ない。在宅のノウハウをもつ内科医やプライマリケア医が小児の在宅医療をはじめられるように、訪問看護や病院の小児科医がサポートする仕組みをつくるほうがいいかもしれない。
昭和大学医学部医学教育推進室 高宮有介氏
痛みには、身体的、心理的、社会的、そしてスピリチュアルな痛みがある。
身体的痛みはその人の表面にある。心理的、社会的痛みは表面から奥までに位置する。そしてスピリチュアルな痛みは、深いところにある。
「夜と霧」のフランクルは、人はどんなときも、生きる意味を失わないと書いている。
ある男性はがんになり、仕事ができなくなり、緩和ケア病棟に入院した。
排泄もおむつでするようになった男性は、「何もできないからもう生きている意味がない」と言った。しかし、そうではなかった。男性の友人達が入れ替わり病室にやってきた。彼らは男性とお酒を飲み交わした。
「お前の笑顔を酒の肴に飲むんだ」という彼らにとって、男性は存在していることに意味があった。
何かをするのではなく、そばにいる(not doing, but being) 死から生、いのちを考える
がんの闘病を経験した看護師が医学生に講義をした。
「医療者の言葉は刃物にもなることを覚えておいてください」
誕生死という言葉がある。生まれてすぐ死んでいく子どもがいる。
患者は、末期と思っても年単位で考える。しかし年単位でなく月単位と考えたほうがいい。やりたいことは先にやっておく。それは私たち自身にも当てはまる。
ある患者さんが残した言葉「押してもダメならもっと押せ」
<座長>聖路加国際病院小児科 小澤美和氏
- 小児医療における緩和ケア教育
大阪市立総合医療センター緩和医療科 多田羅竜平氏 - 家族には自分自身にもケアが必要。子どもの場合、代われるものならかわってやりたいという。
配偶者や親が病気の場合にはあまりそのような言葉はきかない。 - 倫理的に、子どもの最善の利益、親の意向、子どもの意向をどう考えるのか。
小児の患者は絶対数が少ない。
処置が子どもに与える影響は大きい。場合によっては、その子どもが大人になってからも、処置に過敏に反応したり、トラウマとなって残ることもある。
欧米では、小児がんは在宅死が多い。アメリカ:小児がんの49%が自宅で死亡、イギリス:小児進行がんの77%が家で死亡。
小児緩和ケアチームが地域とコミュニケーションをとるようになっている。 - 真実を伝えることは薬と同じである。効果と副作用がある。
- 10月16日―17日 小児科医のための緩和ケア教育プログラムCLICの
研修会(東京)小児科医のための緩和ケアプログラム
(CLIC:Care for Life-threatening Illnesses in Childhood)
- 小児専門病院における緩和ケアチームの取り組み
聖隷三方原病院臨床検査科 天野功二氏 - 小児がんの専門家から緩和ケアへ。静岡子ども病院に小児の緩和ケアチームを立ち上げた。
2009年6月から静岡こども病院緩和ケアチーム。メンバーは、医師「麻酔科、緩和ケア、血液腫瘍科、児童精神科」、看護師、薬剤師、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)である。
現在は週1回の活動日にカンファレンスを行いケアの方針を検討している。役割はあくまでコンサルテーションであり、検査や処方は行っていない。持続可能な状態をつくっていく。 - やってみてよくわかったことは、思い通りに進まないということ。やってみなかったらわからなかったことだった。今後も地道な活動を継続し、すべての子ども達が適切な緩和ケアが受けられる体制を構築していく。
- 【~会場からの発言~】
神奈川県立こども医療センターの三輪高明氏から、2008年12月に、日本で始めて小児の緩和ケアサポートチームが立ち上げられたことについての追加発言があった。
- 【~会場とのやり取り~】
ホスピスは、死ぬための場所ではない 生きるための場所である。
ホスピスの概念は国によって違う。日本のホスピスの概念は、緩和ケア病棟からはじまったので、がんが中心となってきた。今、過渡期ではあるが、小児に関わる私たちの動きを通じて、子どものホスピスは、がんに限らず、生命の危機に瀕した子どもと家族を対象とする独自性を訴えていきたい。
小児在宅医療緩和ケア研究会の運営会議を牽引してこられた前田浩利先生はじめ、運営事務局のあおぞら診療所新松戸の皆さんに感謝いたします。